海外旅行で薬は持ち込める?事前準備や空港での注意点を薬剤師が解説
海外旅行に薬を持って行こうと思っても、次のような不安を感じる方は少なくないでしょう。
「この薬、海外に持って行っても大丈夫?」
「空港で没収されたりしない?」
実際、事前の確認を十分にせずに日本から薬を持参し、空港や入国時にトラブルになってしまうこともあります。
この記事では、薬の持ち込みの基本ルールや事前準備、注意が必要な薬の種類、国ごとの規制の違いについてわかりやすく解説します。
海外旅行で薬を持ち込むときの基本ルール
海外旅行に薬を持っていくこと自体は、原則として可能です。
ただし、トラブルを避けるためには、持ち込む際の基本ルールを正しく理解しておく必要があります。
薬の持ち込みは「旅行中に自分で使う分」だけ
海外に持ち込める薬は、基本的に旅行中に本人が使用する分に限られます。
滞在する日数に対して極端に多い量を持っていると、営利目的を疑われる可能性があるため、注意が必要です。そのため、旅行日数分に加えて数日分の予備を用意する程度にとどめるようにしましょう。
なお、国によっては「30日分まで」など、具体的な持ち込み上限が定められている場合もあるため、事前の確認が欠かせません。
元の包装のまま、何の薬かわかる状態で持っていく
税関や空港で確認を求められた際、薬の名前や成分が分からないと、確認に時間がかかったり、持ち込みを認めてもらえなかったりする場合があります。
そのため、外箱や包装、薬袋などは捨てずに、そのまま持参するようにしましょう。
どうしても小分けで持っていきたい場合は、それぞれの薬の説明書を一緒に持っていくなど、何の薬なのかわかる状態にしておくことが大切です。
なるべく手荷物に入れて飛行機に持ち込む
飛行機に乗る際は、できるだけ薬は手荷物に入れておくことをおすすめします。薬を全て預け荷物に入れてしまうと次のようなリスクがあるためです。
- 預け入れ荷物は温度変化の影響を受けやすい
- 機内で急に体調が悪くなったときに服用できない
- ロストバゲッジ(預け荷物の紛失・遅延)のリスクがある
特に持病の薬は、預け荷物に入れてロストバゲッジに遭うと、いつもどおり服用できなくなってしまいます。旅行中も薬を飲めるよう、手荷物に入れてきちんと管理しておきましょう。
海外旅行で薬を持ち込むための事前準備
海外旅行で薬を持ち込み、トラブルを避けるためには事前準備が欠かせません。
なかには許可申請や書類の取得に日数がかかるケースもあるため、出発直前ではなく余裕を持って準備を進めることが大切です。
渡航先・航空会社ごとの決まりを必ず確認する
薬の持ち込みのルールは、渡航先の国によってことなります。
特に、次のような点は事前に確認しておきましょう。
- 持ち込み可能な数量や日数の上限
- 薬の情報を示す書類の提出義務
- 持ち込みが制限されている薬の有無
以前訪れたことがある国でも、規制内容が変更されている場合があります。
そのため、渡航前には各国大使館や政府機関の公式サイトなどで最新情報を確認するようにしましょう。
加えて、機内への持ち込みについても、航空会社ごとに運用が異なることがあります。
特に、液体の薬やインスリンなどの自己注射剤、医療機器等については、事前申請や追加の確認が必要になる場合があります。
こちらも利用する航空会社の公式サイトで事前に確認しておくと安心です。
英文の診断書や薬剤証明書を発行してもらう
現地の空港や入国審査で、持参している薬の内容について説明を求められたり、医師の診断書の提示を求められたりすることがあります。
そのため、英文の診断書や薬剤証明書を準備しておくと安心です。
英文の診断書は処方を受けている医療機関で医師に依頼でき、薬剤証明書や薬の説明書は薬局で発行してもらえる場合があります。
ただし、これらの書類は即日発行できないこともあるため、渡航が決まったら早めに医療機関や薬局へ相談するようにしましょう。
許可や申請が必要な薬は早めに手続きを行う
多くの薬は特別な申請をせずに持ち込めますが、麻薬や向精神薬など一部の薬については、事前の許可申請や証明書の取得が必要になる場合があります。
書類の準備や審査に数週間程度かかるケースもあり、出発直前では間に合わない可能性があります。
旅行の予定が決まったら、持参する薬が申請対象かどうかを確認し、必要な手続きを早めに進めておくことが大切です。
海外への持ち込みに注意が必要な薬
ここからは、海外への持ち込みに注意が必要な薬について解説します。
日本では合法で日常的に使用されている薬でも、海外では規制対象や持ち込み制限薬に該当する場合があります。
「医師から処方されているから大丈夫」「日本で普通に買える薬だから問題ない」と考えていると、空港や入国審査で確認を求められたり、追加の手続きが必要になったりすることがあります。
また、規制対象ではなくても、成分や剤形によっては詳しい確認を受けやすい薬もあります。安心して旅行に出発できるよう、事前に確認しておきましょう。
医療用の麻薬・覚醒剤原料・向精神薬
麻薬・覚醒剤原料・向精神薬に該当する薬は、持ち込みや持ち出しに特別な手続きが必要になる場合があります。これらの薬は、本人の治療目的で携帯する場合に限って認められるのが原則です。
特に麻薬や覚醒剤原料については、日本からの持ち出し・持ち込みに際して、事前に厚生労働省地方厚生局麻薬取締部への申請と許可が必要です。
一方、向精神薬は、日本の制度上は申請が不要なケースもありますが、渡航先の国では別途許可や証明書が必要になることがあります。
そのため、処方箋の写し、英文の診断書、薬剤証明書などを携帯しておくと安心です。
いずれの場合も、手続きや書類準備に時間がかかることがあるため、旅行が決まったら早めに確認・準備を進めましょう。
風邪薬・鎮痛薬
風邪薬や鎮痛薬にも注意が必要です。
例えば、次のような成分を含む薬は、国によって規制対象となったり、申告が必要になったりする場合があります。
| 分類 | 成分名 |
| 咳止め成分 | デキストロメトルファン、コデイン、ジヒドロコデイン |
| 鼻詰まり改善成分 | エフェドリン、プソイドエフェドリン |
| 解熱鎮痛薬の配合成分 | アリルイソプロピルアセチル尿素、カフェイン |
これらは日本では市販薬にも含まれる成分です。気軽に購入できる商品であっても海外では規制対象となる可能性があるため注意が必要です。
インスリン・エピペンなどの自己注射薬
インスリンやエピペンなどの自己注射薬は、通常は治療目的での持ち込みが認められていますが、空港の保安検査や税関で内容について確認を求められることが多い薬でもあります。
機内への持ち込みも一般的には可能ですが、注射針を伴うことや冷所保存が必要な場合があることから、処方箋の写し・主治医の証明書・糖尿病患者用IDカードなどの提示を求められることがあります。
また、冷蔵保管が必要な場合は薬品保冷用の保冷剤を用意しておくと安心です。保冷剤の持ち込みルールは航空会社や空港によって運用が異なることがあるため、事前に確認しておきましょう。
粉薬・一包化している薬
粉薬や一包化された薬は、見た目だけでは何の薬か分かりにくいため、税関や保安検査で内容について質問を受けやすいです。
処方内容が分かる英文の書類や薬剤証明書を携帯しておくと、説明がスムーズになります。
また、渡航先の規制や持ち運びやすさを考慮して、医師に相談のうえ、粉薬を錠剤タイプに変更が可能であれば対応してもらうのも一つの方法です。
【国別】薬の持ち込みに関する規制の例
薬の持ち込みに関するルールは、国によって異なります。
ここでは、日本人にも人気の高い旅行先のうち、医薬品に関する規制が設けられている代表的な例を紹介します。
ただし、規制内容は変更されることがあるため、必ず渡航前に各国の大使館や政府機関の公式サイトで最新情報を確認しましょう。
アメリカ
アメリカ旅行では、一般的に旅行者本人が使用する目的の薬の持ち込みが認められています。
持参する薬は、旅行期間中に必要な量を基本とし、必要以上の量を持ち込まないようにしましょう。
また、常習性のある薬物や麻薬性鎮痛薬などを持参する場合は、担当医の診断書や処方箋のコピーなど、薬の内容を確認できる書類を求められることがあります。旅行前に必ず準備しておきましょう。
韓国
韓国への医薬品の持ち込みで注意が必要なのが、「アリルイソプロピルアセチル尿素」を含む製品です。2025年4月以降、韓国ではこの成分を含む医薬品の持ち込みが規制対象となりました。
日本の市販薬にも幅広く使用されている成分であり、例えば以下のような商品が該当します。
- イブクイック頭痛薬
- イブA錠
- バファリンプレミアム
- ロキソニンSプレミアム
風邪薬や鎮痛薬に含まれている場合が多いため、韓国行きの常備薬を選ぶ際は注意が必要です。
シンガポール
シンガポールは、医薬品や規制対象物質の持ち込みに関する管理が厳しい国の一つです。
一部の薬は事前申請や許可が必要となる場合があり、市販薬であっても含まれる成分や持ち込む量によって確認が必要です。
例えば、以下のような成分を含む薬は注意が必要です。
| 薬の種類 | 対象成分 |
| 咳止め薬 | コデイン、ジヒドロコデイン |
| 鼻炎薬 | プソイドエフェドリン |
また、向精神薬(睡眠薬・抗不安薬など)、ADHD治療薬、強い鎮痛作用を持つ薬剤などは、事前の申請や許可が必要となる場合があります。
必要な手続きを行わずに持ち込んだ場合、入国時のトラブルや法的な問題につながる可能性があるため注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
ここでは、海外旅行への薬の持ち込みについて、よく寄せられる質問にまとめてお答えします。細かい疑問を解消しておくことで、安心して旅行の準備を進めることができます。
Q1. 家族や友人の分の薬をまとめて持っていくのはNG?
家族の体調が心配で、まとめて薬を持参したくなることもあるでしょう。
ただし、海外へ持ち込める薬は基本的に本人が使用する目的のものに限られます。
お子さんなど、本人が自分で管理できない場合の薬を保護者が持参することはありますが、基本的には使用する人ごとに必要な薬を準備するようにしましょう。
また、友人の分の薬をまとめて持っている場合、数量や薬の種類によっては、販売・譲渡目的ではないか確認を求められる可能性があります。
Q2. 薬の英文証明書は絶対に必要?
すべての薬で英文証明書が必須なわけではありません。
市販薬などを旅行期間中に使用する程度の一般的な量で持参する場合は、特別な書類が必要ないケースが多いです。
一方で、向精神薬や自己注射薬、継続して使用している処方薬などは、渡航先によって書類の提示を求められる場合があります。
また、薬の種類にかかわらず、税関や入国審査で持参している薬について説明を求められる可能性はゼロではありません。
英語や現地の言葉での説明に不安がある場合は、持参する薬の英文診断書や薬剤情報が分かる書類を事前に準備しておくと安心です。
Q3. 海外で購入した薬を日本に持ち帰るときの注意点は?
海外で購入した薬を日本に持ち帰ることは、一定の条件を満たせば可能です。ただし、いくつか注意が必要です。
日本国内で正規に流通している医薬品は、品質・有効性・安全性について確認されています。一方で、海外で購入した薬は、日本の制度に基づく確認を受けていない場合があるため、成分や品質の保証がされていません。
また、海外ではドラッグストアなどで一般的に販売されている薬でも、含まれる成分によっては、日本では承認されていないものや、持ち込みに制限があるものがあります。
さらに、海外で購入した薬は、原則として自分自身が使用する目的に限って認められています。
他の人へ販売したり、譲ったりすることはできません。家族や友人へのお土産として持ち込むことも避けましょう。
薬の持ち込みルールを理解して安心して旅行に臨みましょう
海外旅行では、薬の種類や渡航先によって持ち込みルールが大きく異なり、知らずに渡航するとトラブルにつながることがあります。そのため、出発前の準備は安心して旅行を楽しむための大切なステップといえるでしょう。
今回のポイントを整理すると、次のとおりです。
- 持ち込める薬は原則「自己使用分」のみ
- 元の包装のまま、何の薬かわかる状態で持参する
- 渡航先・航空会社ごとのルールを事前に確認する
- 麻薬・向精神薬など規制が厳しい薬は早めに申請手続きを行う
- 英文の診断書や薬剤証明書を準備しておくと安心
正しい知識と十分な準備を整えて、安全で快適な海外旅行を楽しみましょう。
参考文献
海外渡航先への医薬品の携帯による持ち込み・持ち出しの手続きについて/厚生労働省
医薬品・化粧品等の個人輸入について/税関
麻薬等の携帯輸出入許可申請を行う方へ/厚生労働省麻薬取締部
Guidance for Travellers/INCB
Traveling with Prohibited or Restricted Medications/CDC
Medical Items/TSA
Personal Importation/FDA
Prohibited and Restricted Items/CBP
Korea Customs Service
Regulations for Personal Medication/HSA Singapore


